「薬剤師なら、メディカルライターになれるよ」——そう言われたことがある方は多いと思います。
たしかに薬剤師の知識はメディカルライターと相性がよく、資格が強みになるのは事実です。ただ、ここで言う「メディカルライター」が**製薬・CRO系(治験文書や申請資料を書く専門職)**を指すなら、話はもう少し慎重になります。
結論からお伝えします。製薬・CRO系のメディカルライターに、完全な未経験からいきなりなるのは、かなり難しいです。求人を眺めていて「未経験からのルートなんて無いのでは?」と感じるとしたら、その感覚はほぼ正しいです。
ただし、薬剤師には「まったく道がない」わけでもありません。この記事では、なぜ未経験直行が難しいのかを整理したうえで、それでも薬剤師にある現実的な回り道のルートを解説します。
そもそも「製薬・CRO系」のメディカルライターとは
同じ「メディカルライター」でも、Webの医療記事を書く仕事とは中身がかなり違います。
製薬会社やCRO(医薬品開発受託機関)で働くメディカルライターが書くのは、主に次のような専門文書です。
- 治験の総括報告書(CSR)
- 添付文書・インタビューフォームの改訂
- 承認申請の資料(CTD)
- 学術論文・学会発表資料の作成支援
一般の読者に向けたコンテンツではなく、医療従事者や規制当局が読む、正確さと形式が厳密に求められる文書です。「メディカルライターとは何か」「Web系との違い」はメディカルライターとは?薬剤師ライターとの違いと仕事内容で整理しているので、あわせて読むと位置づけがはっきりします。
この記事で扱うのは、あくまで製薬・CRO系のほうです。
未経験からいきなりは、なぜ難しいのか
まず「難しい」と言い切る根拠を、順にお伝えします。
中途採用のほとんどが「経験者」だから
製薬・CRO系メディカルライターの中途求人を見ると、応募条件に次のような実務経験を求めるものが大半です。
- 臨床開発・薬事申請の業務経験
- 安全性情報・市販後調査での文書作成経験
- メディカルライティングそのものの経験
つまり「文章を書いた経験」ではなく、「医薬品開発の現場で専門文書を扱った経験」が問われます。調剤薬局やドラッグストアでの勤務経験は、薬の知識としては活きますが、この"文書作成の実務経験"には直結しにくいのが実情です。
英語力が前提になることが多い
治験文書や論文は英語が基本です。日本語だけで完結する求人もありますが、専門性が高い案件ほど英語での読み書きが前提になります。ここで足踏みする薬剤師は少なくありません。
規制文書の「作法」が独学しづらい
ICH-GCP(治験の国際基準)やCTDの構成、統計結果の読み取りなど、規制文書には決まった作法があります。これらは現場で覚える性質のものが多く、独学だけで「書けます」と示すのが難しい領域です。
こうした事情が重なり、求人票に「未経験可」が少ない——これが、未経験直行が難しいと言われる理由です。
それでも薬剤師にある「間接ルート」3つ
では完全に無理かというと、そうでもありません。「いきなり」が難しいだけで、回り道なら道はあるというのが正確な言い方です。薬剤師が現実的に狙えるルートは、大きく3つです。
ルート① CROに別職種で入って、社内で寄せていく
一番現実的なのがこれです。まずCRA(臨床開発モニター)やDM(データマネジメント)など、メディカルライティング以外の職種でCROに入る方法です。
CRO業界での実務経験があれば、「メディカルライティング未経験でも歓迎」とする求人が出てきます。治験の現場を知っている人材は、文書を書く側に回るときにも強いからです。遠回りに見えますが、業界の内側に入ってしまうのが結局は近道になります。
ルート② 資格保有者の「未経験者枠」を狙う
数は多くありませんが、医師・薬剤師・獣医師などの資格保有者や、生物・化学系の大学院卒を対象にした「未経験者枠」の求人が実在します。学術的な文書に抵抗なく取り組める素地がある人を、経験不問で採用しようという枠です。
薬剤師免許は、まさにこの枠の応募条件を満たします。数は限られるので、こまめに求人をチェックして出会ったら逃さない、という姿勢が要ります。
ルート③ Web系で「書く実績」を積んでから寄せる
もう一つは、いったんWeb系の医療記事で書く実績を作り、そこから製薬会社のオウンドメディアなど、より専門性の高い仕事へ少しずつ近づいていく方法です。
こちらは製薬・CRO系に直接つながる保証はありませんが、「文章を書いて納品してきた」という実績は、どのルートでも無駄になりません。Web系の始め方は薬剤師ライターの始め方:最初の案件の取り方で解説しています。未経験から実際に医療ライターを始めた流れは未経験から医療ライターになった実体験も参考になります。
3つのルートを比べると
| ルート | 入り方 | 向いている人 |
|---|---|---|
| ①CROに別職種で入る | CRA・DMで入社→社内でMWへ | 腰を据えて業界に入りたい人 |
| ②資格の未経験者枠 | 資格保有者向け求人に応募 | 求人を粘り強く探せる人 |
| ③Web系で実績を積む | 医療記事で書く実績→専門文書へ | 副業・在宅から始めたい人 |
薬剤師免許は、どこで効くのか
ここまで「難しい」と繰り返しましたが、薬剤師であること自体は、間違いなく有利に働きます。
- 資格枠での応募条件を満たせる:ルート②の未経験者枠に、そもそも応募できる
- 学習コストが下がる:薬理・添付文書・医薬品の承認の考え方に、すでに馴染みがある
- 専門文書の内容を理解しやすい:治験や安全性情報の中身が「何の話か」がわかる
一般の未経験者が同じ枠に挑むよりも、薬剤師はスタートラインが前にある状態です。「未経験でも簡単になれる」とまでは言えませんが、「未経験でも土俵には上がれる、数少ない職種」だとは言えます。
目指すなら、今からできる準備
もし製薬・CRO系のメディカルライターに本気で近づきたいなら、今からできる準備があります。
- 英語に触れ続ける:まずは英語の論文を読む習慣をつける
- 規制文書の作法に触れる:ICH-GCPやCTDの基本的な考え方を知っておく
- 「書く実績」を先に作る:Web医療記事でいいので、納品した実績を持っておく
- 求人の探し方を変える:一般の求人サイトより、薬剤師特化の転職サイトやCRO専門の求人で「未経験可×資格保有者」を探す
製薬会社での臨床開発などの経験は、この分野で特に強い武器になります。もし経験があるなら、それをどう活かすかは製薬会社出身の薬剤師ライターが持つ強みで触れています。
まとめ
製薬・CRO系メディカルライターに、未経験からなれるのか——ここまでの内容をまとめます。
- いきなり未経験で製薬・CRO系メディカルライターになるのは、かなり難しい。中途採用の多くが実務経験者を求めるため
- 難しさの中心は「臨床開発・薬事などの文書作成経験」「英語力」「規制文書の作法」の3つ
- それでも薬剤師には回り道がある:①CROに別職種で入る ②資格保有者の未経験者枠 ③Web系で実績を積んでから寄せる
- 薬剤師免許は「未経験でも土俵に上がれる」数少ない条件。一般の未経験者よりスタートラインが前にある
- 一番現実的な第一歩は、まずWeb医療記事で「書く実績」を作ること
「未経験からいきなり」を狙うと壁は高いですが、遠回りを前提にすれば、薬剤師にはちゃんとルートがあります。焦らず、入れるところから業界に近づいていくのが結局は近道です。
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