AIに医療記事の下書きを作らせると、文章としてはよくできています。読みやすく、構成も整っていて、そのまま出せそうに見えます。
それでも、書かれている内容が日本の話とは限りません。
AIが出してくる医療情報には、海外では正しくても日本では通らないものが混ざります。しかも日本語として自然なので、読んだだけでは気づきません。修正を頼まれた原稿を開くと、この種の確認に時間を取られることがよくあります。
この記事では、AIが書いた医療記事を「日本の基準に合っているか」という目で確かめる5つの視点を、確認先とあわせて整理します。
なぜAIは「海外の基準」を書いてくるのか
理由は単純で、AIが学んでいる情報の多くが英語圏のものだからです。
医療・健康の分野は、英語の論文・ガイドライン・製品情報が圧倒的に多く蓄積されています。AIはそこから答えを組み立てるので、何も指定しなければ「世界的にはこうなっている」という内容が出てきます。
やっかいなのは、その情報自体は間違いではないことです。海外では実際に承認されている薬、実際に売られているサプリ、実際に認められている効能。だからAIの文章には迷いがなく、断定的で、もっともらしく読めます。
ただ、医薬品の承認は国ごとに行われます。海外で認められていることと、日本で認められていることは別です。この一段が抜け落ちたまま原稿になると、日本では書けない内容が、書けるものとして記事に残ります。
日本基準で確かめる5つの視点
AI原稿を受け取ったら、次の5つを上から順に見ていきます。たいていの混入は、この途中で止まります。
| 視点 | 何を疑うか | 確認先 |
|---|---|---|
| ①承認 | 日本で承認されている成分・薬か | PMDAの医療用医薬品情報検索・添付文書検索 |
| ②効能・効果 | 日本で認められた効能と同じか | 添付文書の「効能又は効果」 |
| ③用法・用量 | 日本の基準の量になっているか | 医薬品は添付文書、サプリは国内流通品の表示 |
| ④分類 | 日本では医薬品か、食品か | 厚生労働省の通知(46通知)の4要素 |
| ⑤エビデンス | 研究の対象者が日本人か | 元の論文の対象者 |
①日本で承認されているか
いちばん先に見るのがここです。
AI原稿に薬の名前や成分名が出てきたら、それが日本で承認されているものかを確認します。海外で広く使われていても、日本では承認申請されていない薬があります。
確認先はPMDA(医薬品医療機器総合機構)の医療用医薬品情報検索と、添付文書の検索です。名前で引いて該当がなければ、少なくとも医療用医薬品としては確認できない、と判断します。
ここで引っかかった時点で、その段落は書き直しになります。
②効能・効果が日本でも同じか
承認されている薬でも、次に見るのが効能の範囲です。
同じ薬でも、国によって認められている使い道が違います。海外では複数の病気に使える薬が、日本では1つの病気にしか承認されていない、ということが起こります。
判断の基準は添付文書の「効能又は効果」の欄です。ここに書かれていない使い道を効果として書けば、承認された範囲を超えた話になります。AIは海外の適応をそのまま並べてくることがあるので、欄と照らし合わせます。
③用法・用量が日本の基準か
数字が出てきたら、その数字がどこの国の基準かを見ます。
海外のサプリメントは、日本で流通しているものより1回あたりの含有量が大きいことがよくあります。AIが海外の一般的な量をそのまま書くと、日本の読者にとっては過剰な量を勧める記事になります。
確認先は、医薬品とサプリメントで分かれます。
- 医薬品:添付文書の「用法及び用量」が基準
- サプリメント:日本国内で流通している製品の表示や、国内で示されている目安量
国内の基準が見つからない場合は、量そのものを書かないほうが安全です。
④医薬品か食品か
同じ成分でも、国によって「医薬品」なのか「食品」なのかが変わります。ここはAI原稿でとくに混ざりやすい部分です。
日本では、医薬品にあたるかどうかを成分本質(原材料)・効能効果・形状・用法用量の4つから総合的に判断する考え方が示されています(昭和46年の通知、通称46通知)。成分の名前だけで決まるのではなく、どう見せてどう使わせるかまで含めて見る、ということです。
海外ではサプリメントとして売られている成分が、日本では医薬品成分として扱われる、という組み合わせもあります。海外の記事を下敷きにすると、「サプリで補える成分」という前提のまま日本語の記事になってしまいます。
→ 例として、メラトニンの扱いを睡眠サプリ・メラトニンの薬機法で解説しています。
⑤エビデンスが日本人を対象にしたものか
最後に、根拠として挙げられている研究の対象者を見ます。
「研究で効果が確認されています」と書かれていても、その研究の対象が海外の患者であれば、日本人にそのまま当てはまるとは限りません。体格・食習慣・薬の使われ方が違えば、結果の意味も変わります。
海外のデータを使ってはいけない、という話ではありません。誰を対象にした研究かを書かずに、日本人の話として読ませてしまうのが問題です。対象を明記するか、断定を避ける書き方にします。
→ 数字や研究データの確認手順は医療記事の数字・統計の裏取り実践で詳しく解説しています。
AI原稿でよく見かける表現と直し方
実際に手が入る箇所は、だいたい次のような形をしています。
「〇〇は不眠の改善に使われています」 日本で医薬品成分として扱われるものを、サプリの記事でこう書くと、医薬品のような効果をうたったことになります。→ 日本で認められている範囲の説明に書き換えるか、その成分自体を記事から外します。
「海外では1日〇〇mgが推奨されています」 事実として海外の推奨量であっても、日本の読者に向けた記事に量だけが残ると、実質的に摂取を勧める内容になります。→ 国内の目安量を確認し、見つからなければ量の記載を外します。
見落とすと何が起きるか
日本で承認されていないものを、医薬品のような効果があるものとして書くと、薬機法第68条(承認前医薬品等の広告禁止)に触れます。
「事実だから」「海外では認められているから」は理由になりません。薬機法は、承認を受けていないものを医薬品的に広告すること自体を禁止しているためです。
→ この考え方の中心は医薬品的効能効果とはに、薬機法全体の構造は薬機法とはにまとめています。
もう一つ押さえておきたいのが、責任の範囲です。薬機法の誇大広告の禁止は「何人も」が対象で、書いた人も対象に含まれます。加えて、記事を掲載するクライアントは行政指導のリスクを負います。原稿を通してしまうことは、依頼主を危ない場所に立たせることでもあります。
AIに指示しても、この確認はなくならない
「日本の添付文書の範囲で書いて」と最初に指示すれば、混入はある程度減ります。実務でもこの一文は入れています。
ただ、ゼロにはなりません。AIは自分の出した内容が日本の基準に合っているかを、自分で確かめられないからです。指示に沿って書こうとした結果、それらしい日本語で海外の話を書く、ということが起こります。
そのため、確認は人の作業として残ります。そして、この確認は文章力ではなく、医薬品の分類と承認の仕組みを知っているかどうかで速さが決まります。薬剤師がAI時代に持っている強みは、まさにこの部分です。
→ AIをどこまで使い、どこから人が判断するかの線引きはAIを使った記事制作の効率化で整理しています。
まとめ:AIの下書きは「日本の話か」を最初に疑う
- AIは英語圏の情報を多く学んでいるため、海外では正しく日本では通らない内容が混ざる
- その情報自体は間違いではないので、読みやすさの確認では見つからない
- 確認は5つ。①日本で承認されているか ②効能が日本でも同じか ③用法用量が日本の基準か ④医薬品か食品か ⑤研究の対象者が日本人か
- 確認先はPMDAと添付文書。数字が出てきたら、その数字がどこの国のものかを見る
- 日本で未承認のものを医薬品的に書けば薬機法第68条に触れ、書いた人も対象になる
AI原稿を読むとき、最初に置く問いは「これは日本の話か」です。ここを一度通すだけで、危ない箇所のほとんどは手前で止まります。
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