化粧品の記事を書いていると、「この表現は使えるのか」と手が止まる場面があります。
「シミが消える」は書けない。では「シミを防ぐ」なら書けるのか。「くすみ」はどうなのか。ひとつずつ調べていると、いつまでも判断が固まりません。
こうした迷いは、化粧品でうたえる効果があらかじめリストで決まっていることを知ると、かなり整理されます。そのリストが「化粧品の効能の範囲」、通称56項目です。
この記事では、56項目とは何か、どこまで書けてどこからNGなのかを、ライターの目線で整理します。
化粧品の効能の範囲56項目とは
化粧品の効能の範囲とは、化粧品が広告や表示でうたえる効果を並べたリストです。厚生労働省の通知で定められていて、現在は56項目あります。
根拠になっているのは、平成23年7月21日付けの「化粧品の効能の範囲の改正について」(薬食発0721第1号)という通知です。それまで55項目だったところに1項目が加わり、56項目になりました。
ポイントは、このリストが「うたってよい効果の上限」だという点です。書ける表現を親切に例示したものではなく、化粧品の効能効果は原則としてこの範囲を超えて標ぼうできません。
化粧品は、薬機法上「人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、皮膚もしくは毛髪を健やかに保つために使用されるもので、作用が緩和なもの」と定義されています。作用が緩和であることが前提なので、体に強く働きかける効果は化粧品の枠に入りません。
56項目の範囲を超える効能効果を化粧品について広告すると、医薬品のような効果を標ぼうしたものとして、薬機法上問題になるおそれがあります。この「医薬品のような効果」が医薬品的効能効果です。
なお、製品そのものが無承認無許可医薬品にあたるかどうかは、広告の文言だけで決まりません。成分本質・形状・効能効果・用法用量などから総合的に判断されます。ライターとして意識するのは、まず「この表現が56項目の範囲に収まっているか」です。
判断は文言だけを機械的に照合するのではなく、広告全体から受ける印象や、使用部位・使用方法とあわせて見ます。通知には言い換えのルールもあり、たとえば「補い保つ」は「補う」「保つ」と分けて書けること、「皮膚」と「肌」は使い分けてよいこと、カッコ書きは使用形態による限定であることが示されています。
56項目に入っているもの、いないもの
56項目の中身は、頭皮・毛髪、皮膚、爪、口唇、歯みがき類といった部位ごとに並んでいます。代表的なものと、そこから一歩踏み出したNG例を並べると、境界の感覚がつかめます。
| 部位・場面 | 書ける表現(56項目の範囲内) | 超えるとNGになる表現 |
|---|---|---|
| 肌全般 | 肌を整える/肌のキメを整える/皮膚をすこやかに保つ | 肌質が改善する/肌トラブルが治る |
| うるおい | 皮膚にうるおいを与える/皮膚の乾燥を防ぐ | 乾燥肌を治す/アトピーが良くなる |
| 肌荒れ | 肌荒れを防ぐ | 肌荒れを治す/炎症を抑える |
| 紫外線 | 日やけを防ぐ/日やけによるシミ、ソバカスを防ぐ | シミが消える/シミを薄くする |
| ニキビ | (洗浄により)ニキビ、アセモを防ぐ ※洗顔料 | ニキビが治る/ニキビ跡が消える |
| シワ | 乾燥による小ジワを目立たなくする ※後述の条件あり | シワが消える/シワを改善する |
| 毛髪 | 毛髪にはり、こしを与える/フケ、カユミを抑える | 髪が生える/育毛・発毛 |
| 歯みがき類 | ムシ歯を防ぐ/歯を白くする ※ブラッシングを行うもの | 歯周病が治る/歯が再生する |
並べてみると、書ける側は「防ぐ」「与える」「保つ」「整える」など、肌や毛髪を健やかに保つ言い方が中心です。一方、NG側は「治る」「消える」「改善する」と、症状や体の働きを変える印象の強い言い方になっています。この差が、化粧品と医薬品を分ける線です。
ただし、語尾だけで白黒が決まるわけではありません。「防ぐ」で終わっていても、対象や前後の説明によっては医薬品的な印象になります。最終的には広告全体の文脈で判断します。
56項目の全文は、厚生労働省の通知(化粧品の効能の範囲の改正について)の別表に載っています。案件で迷ったときは、記憶ではなく通知そのものを開いて確認するのが確実です。
つまずきやすい3つの境界線
実務で判断に迷うのは、だいたい次の3つです。
美白:「防ぐ」は書けても「消す」は書けない
56項目にあるのは「日やけによるシミ、ソバカスを防ぐ」です。これから起きるものを防ぐ話であって、すでにあるシミをどうにかする話ではありません。
そのため、化粧品の記事で「シミが消える」「シミを薄くする」は書けません。冒頭で挙げた疑問の答えがここにあります。
注意したいのは、「美白」が56項目に載っている効能名ではないことです。無条件に使える言葉ではなく、化粧品で使うなら日やけによるシミ・ソバカスを防ぐという範囲をはみ出さないよう、前後の説明や注釈まで含めて確認します。単語だけを見て可否を決められません。
「メラニンの生成を抑え、シミ・ソバカスを防ぐ」は、承認を受けた医薬部外品(薬用化粧品)で使われる代表的な表現です。一般の化粧品にそのまま当てはめることはできません。
シワ:例外はひとつだけ
56項目に加わった56番目が「乾燥による小ジワを目立たなくする」です。化粧品でシワに触れられるのは、実質この表現だけです。
ただし条件があります。この効能を表示・広告できるのは、日本香粧品学会の「化粧品機能評価法ガイドライン」またはこれと同等以上の試験を行い、効果が確認された商品に限られます。試験をしただけでは足りず、効果が確認されている必要があります。
そのうえで、日本化粧品工業連合会の自主基準により、効能に印を付けて「※効能評価試験済み」と商品に表示することが求められます。この注記は、大きな文字にする・色を変えるなど強調して書いてはいけないとされています。
書けるのは「乾燥による小ジワ」を「目立たなくする」ところまでです。「シワが消える」「シワを改善する」は化粧品では書けません。原稿にシワの表現が出てきたら、その商品が試験で効果を確認したものかどうかをクライアントに確認します。
ニキビ:洗顔料かどうかで変わる
56項目のニキビ関連は「(洗浄により)ニキビ、アセモを防ぐ」で、通知では対象が洗顔料に限定されています。
つまり、洗い流すことで防ぐという条件付きの効能です。化粧水や乳液など、洗い流さない商品には当てはめられません。同じブランドの記事でも、アイテムによって書ける・書けないが変わります。
そしてどのアイテムでも「ニキビが治る」は書けません。治すのは医薬品の領域です。
医薬部外品との違い
同じ棚に並んでいても、化粧品と医薬部外品では書ける範囲が違います。
| 化粧品 | 医薬部外品(薬用化粧品) | |
|---|---|---|
| 効果の決まり方 | 56項目のリストで一律に決まっている | 商品ごとに承認された効能 |
| 美白の表現 | 日やけによるシミ・ソバカスを防ぐ、まで | メラニンの生成を抑え、シミ・ソバカスを防ぐ |
| ニキビの表現 | 洗浄によりニキビを防ぐ(洗顔料など) | ニキビを防ぐ(承認された商品) |
| 判断のしかた | リストと照らし合わせる | その商品の承認内容を確認する |
医薬部外品は商品ごとに承認が異なるため、リストを見れば済む話になりません。原稿に医薬部外品が出てきたら、その商品の承認された効能効果に加えて、用法・用量や有効成分まで含めてクライアントに確認します。「薬用と書いてあるから強い表現が使える」という判断はできません。
商品の分類そのものがあいまいなときは、先に処方薬・OTC・医薬部外品・健康食品の違いを確認すると整理しやすくなります。
56項目の範囲内でも安心とは限らない
56項目に収まっていれば必ず問題ない、というわけではありません。書き方によっては、別のルールに触れます。
表現を強めると誇大広告になります。 「肌を整える」は書けますが、「たった1週間で肌が生まれ変わる」と足せば、事実を超えた印象を与える表現になります。ウソでなくても大げさな表現がNGになる考え方は誇大広告とはで解説しています。
根拠のない比較や最上級も別問題です。 「業界最高の保湿力」のような表現は、薬機法とは別に景品表示法の優良誤認にあたる可能性があります。
写真や体験談も同じです。 使用前後の写真で変化を大きく見せれば、56項目の範囲を超えた効果を暗に示したことになります。
つまり56項目は「ここまでなら効果として書ける」という入口の線であって、そこから先は表現の強さで判断が変わります。
まとめ:迷ったら「56項目のどれに当たるか」で考える
化粧品の効能56項目のポイントをまとめます。
- 化粧品でうたえる効果は、厚生労働省の通知で示されている(現在56項目)
- この範囲を超える効能効果を広告すると、薬機法上問題になるおそれがある
- 書ける側は「防ぐ・与える・保つ・整える」、NG側は「治る・消える・改善する」が目安。ただし語尾だけでは決まらない
- 美白は「日やけによるシミ・ソバカスを防ぐ」まで、シワは試験で効果を確認した「乾燥による小ジワを目立たなくする」だけ、ニキビは洗顔料の洗浄によるものだけ
- 医薬部外品はリストではなく、商品ごとの承認内容・用法用量・有効成分で判断する
- 56項目に収まっていても、表現を強めたり写真や体験談で見せ方を盛れば、誇大広告や優良誤認になる
化粧品の原稿で迷ったときは、「この表現は56項目のどれに当たるか」と考えると判断が早くなります。当てはまるものが見つからなければ、書けない表現の可能性が高いと考えて、商品の分類・使用方法・根拠資料まで確認します。
実際の原稿チェックで使う言い換え表とチェック項目は医薬部外品・化粧品記事の薬機法チェックシートにまとめています。あわせて使うと、判断から手直しまで一続きになります。
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