「かぜ薬はドラッグストアで手軽に買えます」「常備薬としてまとめ買いしておくと安心」——市販薬の記事でよく見かけるこうした表現が、2026年5月から事実として不正確になったことをご存じでしょうか。

2026年5月1日に施行された改正薬機法で、指定濫用防止医薬品という新しい区分が生まれ、かぜ薬・咳止め・睡眠改善薬など身近な市販薬の売り方が大きく変わりました。

この記事では、現役薬剤師として実際に店頭で対応している立場から、新制度の内容と、医療・健康記事を書くライターが知っておくべき注意点を整理します。

指定濫用防止医薬品とは

指定濫用防止医薬品とは、濫用(オーバードーズ)のおそれがある成分を含む市販薬について、法律上の区分として新しく設けられたものです。2026年5月1日に施行されました。

背景にあるのは、若い世代を中心とした市販薬のオーバードーズ(過量服薬)問題です。処方薬と違い、市販薬は「買えてしまう」ことが濫用の入り口になっており、販売段階での歯止めが強化されました。

これまでも「濫用等のおそれのある医薬品」として販売時の確認ルールはありましたが、新制度では法律上の区分に格上げされ、ルールの遵守が義務になりました。違反すれば行政処分の対象です。

対象は8成分:かぜ薬・咳止め・睡眠改善薬など身近な薬

対象となるのは、次の8成分を含む市販薬です。

成分 主な用途
コデイン 咳止め・かぜ薬
ジヒドロコデイン 咳止め・かぜ薬
デキストロメトルファン 咳止め
エフェドリン 咳止め・鼻炎薬
メチルエフェドリン 咳止め・かぜ薬
プソイドエフェドリン 鼻炎薬
ブロモバレリル尿素 解熱鎮痛薬・催眠鎮静薬
ジフェンヒドラミン 睡眠改善薬・鼻炎薬・かぜ薬

ポイントは、特殊な薬ではなく、誰もが知っている定番のかぜ薬・咳止め・睡眠改善薬の多くが該当することです。デキストロメトルファンとジフェンヒドラミンは今回の制度で新たに加わりました。

何が変わったのか:販売ルールの要点

店頭とネット通販の両方で、販売の仕方が変わりました。

指定濫用防止医薬品で変わった3つの販売ルールを示した図解。①18歳未満は小容量1個まで=氏名・年齢の確認が必要、②大容量・複数購入は理由の確認と情報提供が必要、③手の届く場所に置けない=直接手に取れない陳列や専門家の目が届く配置が必要

①18歳未満への販売は「小容量1個まで」

18歳未満の購入者には、小容量の製品1個のみの販売となり、大容量製品や複数個の販売はできません。販売時には薬剤師または登録販売者が年齢を確認し、18歳未満の場合は氏名も確認します。年齢の確認は18歳未満に限らず、対象の薬を買う人全般に行われるものです。

「小容量」の目安は、5日分以下(かぜ薬・解熱鎮痛薬・鼻炎内服薬は7日分以下)の包装です。

②大容量・複数購入には理由の確認と情報提供

18歳以上でも、大容量製品や複数個をまとめて買う場合には、購入理由の確認と、薬剤師・登録販売者からの情報提供が必要になりました。「レジに持っていけばそのまま買える」薬ではなくなっています。

③手に取れる場所に置けなくなった

陳列のルールも変わりました。お店は次のいずれかの対応が必要です。

  • 鍵付きの棚など、購入者が直接手を触れられない陳列にする
  • 陳列棚から1.2m以内に購入者が近づけない措置をとる
  • 情報提供設備から7m以内に置き、薬剤師・登録販売者の目が届く範囲で管理する

「棚から自分でカゴに入れてレジへ」という買い方が、対象の薬ではできなくなりつつあります。空箱を並べて実物はレジで渡す、といった運用に変えた店舗もあります。

ライターへの影響:その表現、もう「事実」ではありません

ここからが本題です。制度が変わったことで、これまで普通に使えていた表現が、事実として古くなりました

「手軽に買える」「まとめ買い」系の表現に注意

古くなった・不正確になりやすい表現:

  • 「ドラッグストアで手軽に購入できます」(対象成分の薬)
  • 「常備薬としてまとめ買いしておくと安心」
  • 「ネットならワンクリックですぐ買える」
  • 「処方箋なしで誰でも買えます」

対象成分の薬でこう書くと、読者が店頭で「話が違う」と感じるだけでなく、まとめ買いや安易な購入をすすめる表現自体が、制度の趣旨と衝突します。とくに「まとめ買い推奨」は、複数購入に理由確認が入る現在の運用と正面からぶつかります。

書き換えの例:

  • 「薬剤師・登録販売者の説明を受けて購入できます」
  • 「濫用防止の観点から、販売個数や年齢の確認が行われる場合があります」
  • 「購入時に用途などを確認されることがあります」

古い記事のリライト需要が生まれている

この制度変更は、過去に書かれた大量の市販薬記事を一斉に古くしました。「おすすめのかぜ薬10選」「眠れないときの市販薬」のような記事の多くは、購入方法の記述が現状と合わなくなっています。

つまりライターにとっては、古い情報のまま放置された記事のリライト・監修需要が生まれているということです。制度を正確に押さえていれば、「この記述は2026年5月以降の制度に合っていません」と指摘できる。これは薬機法に強いライターの価値そのものです。

オーバードーズに触れる記事での注意

濫用問題を扱う記事そのものにも、気をつけたい点があります。

  • 具体的な濫用方法・量を書かない(「〇錠飲むと~になる」は絶対に書かない。模倣を誘発します)
  • 特定の商品名を「濫用される薬」として名指しで貶めない(商品への信用毀損になり得ます)
  • 不安を煽って別の商品へ誘導する構成にしない(優良誤認や品位の問題)
  • 困っている人に向けては、相談窓口(医師・薬剤師・公的相談先)への導線を示す

「濫用が社会問題になっている」という事実の紹介と、「どうすれば濫用できるか」が読み取れてしまう記述は、まったく別物です。

記事を書く前のチェックポイント

市販薬を扱う記事で、対象成分が関係しそうなときの確認ポイントです。

  1. 扱う商品に8成分が入っていないか:かぜ薬・咳止め・睡眠改善薬・鼻炎薬はまず疑う。成分表示で確認
  2. 購入方法の記述が2026年5月以降の制度に合っているか:「手軽に」「まとめ買い」系は特に注意
  3. 古い記事のリライトなら、販売ルールの記述を最優先で見直す
  4. 濫用に触れるなら、方法・量を書かず、相談先への導線を入れる

制度の細部(対象成分の追加など)は今後も動く可能性があります。書く前に厚生労働省の最新情報を確認する習慣が、この分野では特に重要です。

実際、この制度は検討段階では「20歳未満」への販売制限案だったものが、国会審議を経て「18歳未満」に変わった経緯があります。このため、検討段階の情報をもとに書かれた記事には「20歳」と記載されたものが今も残っています。二次情報だけを参照すると、こうした古い数字をそのまま引き継いでしまうのです。

まとめ

  • 指定濫用防止医薬品=濫用のおそれがある8成分を含む市販薬の新しい法律上の区分(2026年5月1日施行)
  • 対象はコデイン・デキストロメトルファン・ジフェンヒドラミンなど、定番のかぜ薬・咳止め・睡眠改善薬に広く含まれる成分
  • 18歳未満は小容量1個まで(氏名・年齢確認あり)、大容量・複数購入は理由確認と情報提供、直接手に取れない陳列へ
  • ライターへの影響:「手軽に買える」「まとめ買い」系の表現が事実として古くなった。古い市販薬記事のリライト・監修需要が生まれている
  • 濫用を扱う記事では、方法・量を書かない・商品を貶めない・相談先への導線を示す

制度改正は、ライターにとって「書き直すべき記事」と「新しく書ける記事」の両方を生みます。薬剤師として店頭の変化を体感している立場からも、この改正は読者の生活に直結する大きな変化です。正確な情報で、丁寧に伝えていきましょう。


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